東京家庭裁判所八王子支部 平成10年(家)3552号 審判 1999年8月09日
主文
本件申立てを却下する。
理由
第1 申立ての趣旨
本籍○○筆頭者申立人の戸籍中、申立人の父母との続柄欄に「長男」とあるのを「二女」と訂正することを許可する旨の審判を求める。
第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば、以下の事実が認められる。
(1) 申立人は、昭和三三年、F県G市で、甲野一郎(仮名)、同花子(仮名)夫婦の第二子として出生し、太郎(仮名)と命名された。○月○日、「長男」として出生の届け出がされ、受理された。
(2) 申立人は、男性として成長し、H県立I高等学校を卒業し、家業の寝具販売業を手伝っていたが、思春期に男性化していく自己の肉体に嫌悪感や拒否感が強まり、性別への違和感が増していった。昭和五九年に新聞記事でオーストラリアで性転換手術を行っていることを知り、すぐに渡豪して、ホルモン療法を受け始め、帰国後も、ホルモン製剤の処方をしてもらったりしていた。
しかし、昭和六二年の二回目の渡豪では、性転換手術を断念し、昭和六三年の三回目の渡豪で、主治医から男性として生きていくことを提案された。申立人は、東京で単身生活を始め、会社員として働くこととしたが、男性として生きることに精神的苦痛を感じ、平成四年の四回目の渡豪時から、女性として生きるための準備段階に入った。平成五年三月には勤務先を退職して、ボイストレーニングや異性装をしたり、精神療法とホルモン療法を受けた。
平成九年一月、申立人は、オーストラリアでいわゆる性転換手術を受け、帰国後は、産婦人科で膣の術後の手当とホルモン療法を受け、神経科で抑鬱症の治療を受けている。
(3) 申立人は、平成五年一〇月に主治医から「ローズマリー」という名前を与えられたとして、戸籍名を「ローズマリー」に変更する旨の名の変更許可の審判を申し立て(当庁平成一〇年(家)第二七二一号事件)、現在抗告審に係属中である。
(4) B医師及びC医師によれば、申立人は、性同一性障害であり、染色体は四六、XY型であるが、性転換手術を受けて、精巣を摘出し、外性器は女性型であると診断されている。
2 以上認定した事実によれば、申立人は、染色体の構成や生殖器の構造等肉体的には正常な男性として出生したが、自己の性別への違和感等から、平成九年にいわゆる性転換手術を受けたものであることが認められる。
そうすると、申立人の戸籍の性別の記載が当初から不適法又は真実に反する場合であったとはいえず、戸籍法一一三条所定の戸籍訂正の事由は存在しない。
よって、本件申立ては理由がないから、これを却下することとし、主文のとおり審判する。
(編注)本決定及び原審判は横書きであるが、編集の都合上縦書きに改め、文中の算用数字は漢数字にした。